サステナブルアパレルと「見えない情報」の壁
環境省が公表した「ファッションと環境に関する調査結果2023」によると、消費者の間でサステナブルファッションへの関心が高まっている一方で、「情報が少ない」「何がサステナブルか分からない」という声も多く見られます(環境省プレスリリース)。店頭で「オーガニックコットン」と表示されていても、その実態——どのような環境で栽培されたのか、誰がどのような労働条件で縫製したのかといった情報——は、消費者にはなかなか見えません。
こうした課題に対応するキーワードが「トレーサビリティ」です。これは単に「どこで、いつ作られたか」に留まらず、素材の調達から加工、縫製、流通、そしてリサイクルや廃棄に至るまで、製品の全ライフサイクルを追跡できることを指します。トレーサビリティが確保されれば、CO2排出量や水使用量、化学物質の使用状況、さらには強制労働・児童労働といった人権問題への対処にも繋がり、サステナブルファッションの中核的な要素といえます。
アパレルサプライチェーンの複雑さが招く情報格差
しかし、このトレーサビリティの確保は容易ではありません。アパレル製品のサプライチェーンは非常に複雑です。例えば、Tシャツ一枚を作るにも、綿花を栽培する農家から始まり、紡績工場、染色工場、生地工場、縫製工場、ボタンやファスナーなどの付属品メーカー、そして商社や物流企業まで、何十・何百もの企業が関与します。しかも、それらは複数の国にまたがって展開されるケースが珍しくありません。
これほど多くのプレイヤーが関わると、各工程でどのような材料が使われ、どれくらいの水やエネルギーが消費され、誰がどのような条件で働いているかといった情報を正確に把握・共有することは非常に困難です。データ形式のばらつきや企業間の情報連携の遅れが、サプライチェーン全体のトレーサビリティ確保を阻む主な要因となっています。
解決策はテクノロジーにあり — 期待されるデジタルな未来
こうした複雑な課題を解決するために、テクノロジーの活用が注目されています。特に期待されているのが「ブロックチェーン」技術です。一度記録された情報の改ざんが極めて困難な分散型データベースとして、製品の生産履歴や認証情報を高い透明性で記録・共有できます。例えば、綿花の産地から最終製品まで、各工程の情報をブロックチェーン上に記録すれば、第三者でもその信憑性を検証できるようになります。
製品一つひとつにQRコードやRFIDタグを付け、スマートフォンで読み取れば生産者情報や素材のサステナビリティ情報にアクセスできる仕組みも普及しつつあります。さらに、欧州連合(EU)では製品の全ライフサイクルに関する情報をデジタル化して共有する「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」の導入が進んでおり、OECDの調査報告でも繊維・衣料品分野への適用可能性が検討されています。こうした仕組みが世界標準として普及すれば、消費者はより信頼性の高い情報に基づいてサステナブルな服を選べるようになります。
私たちが「知る」ことで変わる未来
アパレル業界のトレーサビリティ向上にはまだ課題が多いものの、環境省が「サステナブルファッションにおける繊維製品のトレーサビリティ確保に向けた検討業務」に着手するなど、日本でも政策レベルでの取り組みが始まっています。企業側も消費者の関心の高まりに応えるべく、情報公開の取り組みを強化しつつあります。
消費者にできる第一歩は「知ろうとすること」です。日常的に着用する服がどこから来て、どのように作られたのかに関心を持ち、情報を公開しているブランドを選ぶことで、アパレル業界はより透明でサステナブルな方向へと変わっていきます。消費者の関心と選択が、業界全体の変化を後押しする重要な力となっています。