サーキュラーエコノミーがアパレルの未来を変える

サーキュラーエコノミーがアパレルの未来を変える

アパレル業界は、線形経済(作って・使って・捨てる)から循環型経済(サーキュラーエコノミー)へのシフトが急務とされています。エレン・マッカーサー財団の推計によれば、アパレル業界では毎年5,000億ドル相当の衣類が、ほぼ使用されないまま埋め立て処分または焼却されています。この大きな損失を資源循環に転換することが、業界全体の課題として認識されています。

サーキュラーエコノミーの定義と基本原則

サーキュラーエコノミーとは、資源を循環させることを前提に設計された経済モデルです。線形経済が「採取→製造→廃棄」という一方通行であるのに対し、循環型経済では「設計→使用→修理・再利用→素材回収→再製造」というループを繰り返します。エレン・マッカーサー財団が提唱するバタフライダイアグラムでは、生物的サイクル(自然に還る素材)と技術的サイクル(工業的に再生できる素材)の2系統を明確に分類しており、アパレル設計においてもこの分類が設計指針となっています。

繊維産業においては、ポリエステルと綿の混紡のように、複数素材が絡み合った製品はリサイクルが困難になります。循環型設計の第一歩は、この素材の複雑な混合を避けることにあります。

デザイン段階から循環を組み込む設計思想

サーキュラーデザインの実践において重要なのは、製品の使用終了後を見越した設計です。具体的には、解体しやすい構造(モノマテリアル設計)、取り外し可能なパーツ(ボタン・ファスナー類)、接着剤を使わない縫合による再利用のしやすさが求められます。

例えば、パタゴニアは修理しやすさを前提に製品を設計し、補修パーツの供給体制を整えています。同社の「Worn Wear」プログラムでは、使い古した製品の修理サービスを提供することで製品寿命を延ばし、廃棄量の低減に取り組んでいます。欧州ではEUエコデザイン規則(ESPR)が繊維製品にも適用範囲を拡大しており、修理性・耐久性の基準が法的要件となりつつあります。

課題:素材分離・回収インフラの整備

循環型経済の実現に向けた最大の技術的課題の一つが、繊維のケミカルリサイクルです。綿やポリエステルを純度高く分離・再生する技術は急速に進歩しているものの、大規模な商業展開にはコスト面での課題が残ります。フィンランドのIonisys(旧Ioncell)やスウェーデンのRe:newcellは繊維リサイクルの量産化に取り組む先進企業として知られています。

消費者側の回収インフラも重要な課題です。H&Mグループはグローバルで衣料回収ボックスを設置し、年間数万トン規模の古着を回収しています。ただし、回収後の仕分けコストと輸送排出量のバランスをどう最適化するかは、業界全体が継続的に検討すべきテーマです。

国内外の先進的な取り組み事例

日本では、Spiber株式会社が開発した構造タンパク質素材「Brewed Protein™」が注目を集めています。植物由来の原料を微生物発酵によって合成し、使用後は微生物分解が可能という生物的サイクルを完結させる素材です。ノースフェイスやムーンスターとの協業製品が発売されており、実用フェーズに入っています。

海外ではPatagoniaの取り組みに加え、ステラ・マッカートニーがPVCや毛皮を使用しない方針を貫きながら、キノコ菌糸由来の素材(マイセリウムレザー)の採用を進めるなど、素材選択から循環設計への取り組みが広がっています。

サプライチェーンDXとの連携による加速

サーキュラーエコノミーの実践には、サプライチェーン全体での情報共有が不可欠です。デジタル製品パスポート(DPP)は、製品の素材組成・製造工程・修理履歴をデジタルデータとして記録し、リサイクル業者が回収品の素材を素早く判定できる仕組みを提供します。EUでは2026年以降、繊維製品へのDPP導入が段階的に義務化される予定であり、サプライチェーンのデジタル化は循環型経済加速の重要な基盤となります。